失くした長ぐつを捜した夜。いつか想い出となる大切なもののために
最終更新日 2016/04/22
「今まで、ありがとうございました」
お世話になった靴や、着られなくなった服とお別れするとき、妻はそう言って手を合わせます。
自分の装いとして、日々を共にしてくれた感謝と、長い間の労い を込めて。
時折、そうやって衣類とお別れする妻を見て、
物を大切にしたくなる、善い行いだと思っていました。
そんなある日、
妻から受け取った泣き顏の顔文字メールで、長男(せー)の長ぐつを どこかに失くしてきた ことを知ったのでした。
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お気に入りの長ぐつ
カーキ色のシンプルな長ぐつは、長男にはまだ大きい15.0サイズ。
それでも、
雨の日も外を歩ける魔法の靴なので、雨上がりや曇り空の日はいつも履いていました。
かなり大きいサイズとして買ってから1年半ほど。
昨日も曇り空の下で長ぐつを履き、
遊歩道や公園で遊んではベビーカーに乗って移動する、そんな風に過ごしていたようです。
その夕刻、妻からのメールで
「長ぐつをどこかで失くしてきちゃった」
という報告を受けました。
曇りの日は暗くなるのが早く、子供たちを連れては探しに行けない状況。
どこで失くしたかも分からず、子供たちを置いて出かけるわけにもいかない。
メールに書かれた泣き顔の顔文字からは、そんな訴えが読み取れたのでした。
失くした長ぐつを捜して
子供たちのいない生活をしていた昔は、
ちょっとした忘れ物や紛失物なら、諦めてしまうことが多々ありました。
でも、衣服や靴との別れを大事にしてきた妻を見ているうちに、物を大切にしたいという思いが出てきたようです。
それに、失くしたものは自分のものではなく、長男が気に入って大切に思っているもの。
親たちが諦めれば、ただ突然、大好きだった長ぐつを失う という理不尽な結果しか生みません。
その夜、いつもの駅より一駅前で降りたぼくは
昼間に妻や子供たちが訪れた公園や道程を歩きながら、小さな長ぐつを捜しました。
遊歩道の前のスーパーには届け物はなく、道端に落ちている様子もありません。
小さな公園に入っても、遊具や砂場に忘れ物もなく、
夜の闇のせいか公園が綺麗に掃除された後のように見えるくらいでした。
もう1つの再会
別の公園に移動しながら、ぼくは失くした長ぐつのことを思います。
そういえば、前にも長ぐつを失くしたことがあったっけ。
まだ次男(ふー)が生まれる前のこと、
雨の日の踏切で、長男の足からするっと落ちた長ぐつに気づかず、同じように捜しに行ったことがあったのです。
あのときは、線路の段差で落としたであろうことを妻と確認して、長ぐつが轢かれてしまったかもしれないと諦めかけたのでした。
大雨の中、急ぎ足で踏切に向かってみると、
誰かが拾い上げてくれたのでしょう、踏切の遮断機の機械の上に長ぐつがチョコンと置かれていました。
中に雨水が入っていたものの、
轢かれた様子もない長ぐつを見て、何だか泣きそうになったのでした。
当時、歩けるようになった長男にあげた新しい長ぐつを、
名もない誰かが拾い上げて、助けてくれた んだな、と。
いつか来る想い出との別れ
少し昔のことを思いながら公園に着いたとき、
入り口の真ん中に ポツンと長ぐつが落ちている のが見えました。
ホッとした想いと、還ってきた嬉しい想い。
それ以上に感じたのは、
たかが長ぐつにどれほどの想い出が詰まっているのか ということ。
三十代後半にもなる大の大人が、夜の公園で半泣きになってしまいました。
ようやく再会できた小さな長ぐつ。
でも、いずれはお別れのときがやってきます。
しばらくは、次男が履くかもしれませんが、
それもまた かわいい子供たちの想い出をさらに蓄積する という切ないもの。
次男も履けなくなったそのとき、長ぐつはどこに行くのでしょうか。
妻には、想い出が詰まったものは
「ぼくの棺桶に入れてね」
と伝えています。
もちろん冗談ではありますが、
「じゃあ棺桶が溢れるね(笑)」
という妻の返しを受けながら、あながち冗談にしたくないような、そんな気分になるのでした。
まとめ
こうやって、
「想い出を大切にしなきゃ」と頻繁に思うのは、やはり齢を重ねたからなのでしょうか。
目まぐるしい育児・家事の途中で出会った、ちょっとした小説みたいな(?)長ぐつをめぐる出来事でした。
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